絵のどんな要素が「美しさ」に影響するのか、という子供の頃の疑問が 私の研究テーマとなりました。
研究を始めて まずわかったことは、「美しさ」とは心理学・数学・哲学・神経美学などさまざまな分野で扱われる 難しい概念だということです。
ほんのいくつか例を挙げると 哲学のひとつの分析美学では、"美とは醜さも含む”と言われています。
数学では、アメリカの数学者 バーコフが ”美の尺度"という式で 美しさ=複雑さ÷秩序 なのだと定義しました.
心理学では、”快感情、新規性、覚醒性が要素”だとされています。
神経美学 では”美しいものを見ると眼窩前頭野皮質が反応する”のだそうです。
東京芸術大学卒の ある先生は、”美とは色と光のマチエールだ”と教えてくださいました。
芸術家たる彼らからすると、”美しさ”とはその生涯を賭けて探求するものであって 定義できるようなものではないのです。
実際、”美しさ”をまず定義して始まる私の研究に、その先生からのご協力を頂くことはできませんでした。
同じ概念を学ぶにしても、立場が違えば考え方も全く違うのだと つくづく思い知りました。
このように「美しさ」とはさまざまな角度から探求されています。ちょうど 深い沼のように。
どんな「美しさ」を研究するのか対象をある程度限定しないとこの沼にハマってしまいます。
ですので私は 絵画の「美しさ」、特に浮世絵、特にある範囲の時代の作品を研究対象とすることに決めました。
研究の新規性として、計算機で「美しさ」にアプローチしようということになり、ついては計算機が認識しやすいように抽象画ではないこと、線がはっきりしていて、認知的に特別な対象である人や人の顔がメインで描かれていないもの、名画として認知されている絵がそのカテゴリーにあること、それらの条件を満たすものとして浮世絵を選びました。
Katsushika HOKUSAI 'Red-Fuji' (1830-32)
© The Adachi Institute of Woodcut Prints
Scenery of a fine summer day.
Katsushika HOKUSAI ’Black -Fuji’ (1830-32)
© The Adachi Institute of Woodcut Prints
Landscape after a summer evening shower. Lightning in lower right.