『TAMING UNCERTAINTY』(R, Hertwig et al., MIT Press. 2019) から、2つめの論文「The Robust Beauty of Heuristics in Choice under Uncertainty (R, Hertwig, J, K. Woike, T, Pachur, and E, Brandstätter)」をご紹介します。
Heuristic(ヒューリスティック)とは「綿密に計算や分析を行わない」「簡単な検討で結論を出す」という意味で 経験則や探索的という意味でも使われます。
この論文は結論として、不確実な状況下ではヒューリスティックな手法のほうがよい選択ができるようだ、と報告しています。
検証のポイントは「どのモデルならうまく期待値(報酬)を計算できるか」です。
従来 意思決定で期待値を計算するには ゲーム理論で有名な「期待効用理論(Expected Utility Theory)」や「ベイジアン決定理論」などの古典的手法が使われてきました。ただし、事前情報がかなり揃っていないとうまく計算できないので現実的にあまり役に立たないのではないか、不確実な状況であればヒューリスティックな手法が有用なのではないか、という指摘があり、果たしてそうなのかを検証しています。例えば、かなり曖昧な状況下で判断する場合、古典的手法では 意思決定者自身の主観的な予想を数値化して織り込まないと計算できません。しかしその予想自体があやふやでは、結果がありえないレベルになってしまう、そのリスクを指摘されていました。
今回は、金銭ギャンブルを仮定した 2・4・8択から1つを選ぶ選択課題で、いろいろな確率分布を組み合わせて20のテスト環境を構築し、事前に50回学習させてから、5つのヒューリスティックモデルでトライアルして、どの手法が一番よい期待値を示すのかを検証しています。
使ったヒューリスティックモデル5つ:equiprobable、probable、lexicographic(Thorngate, 1980; J. W. Payne et al.1988)、least-likely ([Thorngate, 1980)、自然平均 (Hertwig & Pleskac, 2008, 2010)
いずれも「期待効用理論」「ベイジアン決定理論」に比べて簡単な計算で済みます。例えば自然平均ヒューリスティックは、確率の掛け算を単純な足し算と割り算に置き換えます。
この論文では、期待値の計算方法として 不確実性が高い状況下においては自然平均ヒューリスティックモデルが最も有用との結果が示されました。