『TAMING UNCERTAINTY』(R, Hertwig et al., MIT Press. 2019) を読みました。意思決定についての本で、これまで確率論で論じられることが多かった意思決定について、より人間らしい、認知プロセスに根差したアプローチを提案しています。
18の論文が掲載されているなかで、まずタイトルに惹かれた「Computational Evolution and Ecologically Rational Decision Making (Peter D. Kvam, Arend Hintze, Timothy J. Pleskac, and David Pietraszewski)」についての、ささやかな感想です。
これは進化認知科学という、認知科学・言語学・脳科学を『進化』の観点から扱う、2008年から発足した新しい研究分野の論文です。
仮想の人工生命体の生死と繁殖を通じて進化プロセスを研究する手法で、不確実性(Uncertainty)に対処しながら 意思決定プロセスがどういう風に発展してきたのか・発展していくのかを論じています。
おそらく「こういう意思決定をすると、確かに生物の遺伝子が進化する(生存競争に勝てる)」を証明できるロジックを考案していて、遺伝子コードを生成するアルゴリズムをどう組むのかが腕の見せ所(研究の新規性)なのかな、と思いながら読みました。新鮮だったのは 遺伝子コードを使っているところで、進化認知科学ではごく一般的なやり方のようです。
この論文のポイントは、Computational Evolution (計算進化)のアプローチを提案したことで、意思決定がどういう風に進化するのかを人工知能を使ってシュミレーションしています。これまでは自然淘汰や野外実験で長い時間をかけたアプローチが主でしたが、提案手法のAIを使うと短時間で多くの結果を得られるようになるという利点があるそうです。
具体的には『Markov Brain』という確率・統計モデルを使ったAIでシュミレーションし、実験も行って「植物が有毒か無毒か」というようなシンプルな条件下では 例え100以上の情報があったとしても1つか2つの情報を使えば最適な意思決定が可能だけれども、より複雑な条件では、いかに周囲からうまく情報を得て適切に統合できるか、が意思決定の進化のポイントなのだということを明確に示しています。
著者が提案したツールを試しに実行した結果がこちらです。
このツールでは、左上の『Target string』に入っている遺伝子コードに 『Output by the agents』のBest列の遺伝子コードが合致しているほど適切な意思決定だとみなします。『#』はエージェント、つまり意思決定の回数(遺伝子コードを生成した回数)です。
この論文の前提として、意思決定は進化の三要素(遺伝子の変異、選択、繁殖)によって変化します。
遺伝子の突然変異の結果 生存競争に勝てたのなら(=Target stringに合致したのなら)繁殖して次世代に伝播する、というロジックでこのツールは動いています。