アイトラッキング装置の設定のひとつ「サンプリングレート」とは、装置が1秒間に取得するデータの数です( Tobii社HPより)。単位はヘルツ (Hz) で、おおよそ30~1200Hzのサンプリンレートの製品があり、値が大きいほど眼球運動を精緻にとらえることができます。具体的な違いは、例えば レートが低い場合はまばたきを検出できません。「ここは一定数データが飛んでいるので まばたきをしている瞬間だ」など分析者が基準を決めて判断する必要があります。
設定要素には もうひとつ「フレームレート」があり、装置が1秒間に画面に映し出す静止画の数のことをいいます。単位はエフピーエス (fps ; frames per second)で、 一般的には24~120 fps が使われており、値が大きいほど動画が滑らかに見えます。
このように機械にとってデータの取得と表示の時間的な細かさがあるいっぽうで、人の目はどれくらいの時間の細かさで映像や景色を見ているのか 調べてみました。機械と違い、目にモニターが備わっているわけではないので、そもそも定量的に言えるものなのかよくわかりません。
その結果、人間の目は1秒間に30~60 fps [1,2]を認識することができ、特定の条件下では90 Hz (←ここの単位はヘルツです)より速いレートで見ることができる可能性があることがわかりました。
[1] Your Eyes vs. Frame Rates: What You Can (and Can’t) See - NAB Amplify (nabshow.com)
[2] The Number of Frames That Human Eyes Can See Per Second (caseguard.com)
[3] 知能システムにおける認識と行動
あくまで装置側のレート数で人の視覚を定量化しているのですね。そうだったのか・・・。
ちなみに 特定の実験環境下では、最大500Hzまで視覚的に追跡できるそうです [4]。
競技用ゲームでは 60 fps 以上のリフレッシュレートを持つモニターが推奨され、144 fps を超えると効果は減少すると指摘されています [5]。60 fps から144 fps モニターに変えるとアニメーションの滑らかさが著しく向上すると知覚できるものの、144 fps を超えるとその差はあまりよくわからなくなるそうです 。
[5] Séamas Weech. Sophie Kenny. Claudia Martin Calderon. Michael Barnett-Cowan. Limits of subjective and objective vection for ultra-high frame rate visual displays. Displays. 64. 2020. 101961. https://doi.org/10.1016/j.displa.2020.101961.
以上の先行研究から、日常生活での人の視覚のレートはおおよそ平均30~60 fpsで上限が144 fps あたりだといえそうです。
そもそもレートのほかに、視力・年齢・性別・環境条件などさまざまな要因が 見え方にかなり影響を及ぼすという報告がされています。
そういえば「神奈川沖浪裏」の波について、1/80000秒でカメラのシャッターをきると波がこの形になるので 葛飾北斎の眼のサンプリングレートは恐るべき精度だったのではないか、という通説があります。そもそも北斎は見ている世界が人と違ったということかもしれません。
ピカソも「立体視」という少し特徴のある見え方をしていたという通説があります。特殊な見え方をしていたからキュビズムの絵を描けたのだそうです。
つい最近、2023年のノーベル物理学賞の研究で「アト秒 = 0.000000000000000001 秒」 の一瞬を観察できるようになったそうですが、すざまじいサンプリングレートですね。
どんどんいろいろな発見が出てきそうです。
子供のころ、ミルククラウンを捉えた約 0.002 秒の一瞬に感動しましたが、もはや「一瞬」のレベルが違います。